贈与税と相続税の負担の違い|お得に財産を渡せるのはどっち?
相続による財産の取得なら「相続税」が課され、これを補完するために生前の贈与については「贈与税」が課されることになっています。
この 2つの税の違いとして課税のタイミングを挙げることができますが、負担の大きさについても違いがあります。課税の仕組みをよく理解していればお得に財産を渡す・受け取ることができますので、ここで基本的なルールを押さえておきましょう。
基礎控除額の差が大きい
課税価格を計算する前には基礎控除が適用できます。適用可能である点はどちらの税でも変わりはなく、基礎控除分は誰でも常に差し引くことができます。
しかし、控除額の大きさには数十倍もの差があり、法定相続人の数が増えるほどその差はさらに広がります。そのため同じ財産の移転でも、課税価格はまったく異なる値となるのです。
基礎控除額の差 | |
---|---|
相続税の場合 | ・「 3,000万円+ 600万円×法定相続人の数」で計算 ・相続財産の合計価額が 3,000万円以下なら非課税で申告も不要 |
贈与税の場合 | ・「 110万円」で固定 ・ 1年間で受け取った贈与財産の合計額が 110万円を超えると贈与税が課税され、申告が必要 |
3,600万円の財産があったとします。その財産の所有者が亡くなると相続人が取得しますが、相続人が 1人でもいると 3,600万円の基礎控除を適用できますので、非課税でまるまる受け取ることができます。
一方、その財産を一括で贈与すると受贈者が使えるのは 110万円までの基礎控除ですので、( 3,600万円- 110万円=) 3,490万円に対して贈与税が課税されてしまいます。この場合、最高税率である 55%が適用されるため、結果的に納付額は「 1,519.5万円」となってしまいます。
※贈与者の直系卑属でかつ 18歳以上の受贈者に対しては、特例税率が適用されて納付額は「 1,330万円」となる。税率の詳細は次項で解説。
課税価格に対する税率の差が大きい
相続税と贈与税、いずれも 10%~ 55%の税率が適用される仕組みになっています。
しかし、適用税率を判定する基準額に大きな差があるため、仮に同じ課税価格になるとしても、基本的に相続税の方がお得になります。
課税価格が同じになる次の例でその差を見てみましょう。
※税額控除の適用はないケースを想定。
相続税の計算例
相続財産の価額は 4,600万円、相続人は 1人として計算例を示します。
課税価格 = 相続財産 4,600万円-基礎控除額 3,600万円
= 1,000万円
相続税の額 = 1,000万円×税率 10%
= 100万円
相続税の税率は超過累進課税制を採用しており、一定額を超えた部分にはより高い税率が適用される仕組みになっています。この計算を簡単に行うには、次の速算表を用いると良いです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照: 国税庁 HP
なお、ここで紹介した例では相続人が 1人であったため計算が単純化されていましたが、相続人が複数いると基礎控除額が増額されるだけでなく、課税価格を法定相続分で分割(このときの価格が上表の「法定相続分に応ずる取得金額」となる。)してから税率を適用することになりますので、より低い税率が適用可能となります。
贈与税の計算例(一般税率)
贈与財産の価額は 1,110万円、受贈者は贈与者の妻として計算例を示します。
課税価格 = 贈与財産 1,110万円-基礎控除額 110万円
= 1,000万円
贈与税の額 = 1,000万円 ×税率 40%-控除額 125万円
= 275万円
前項で紹介した相続税の場合と課税価格は同じです。しかしながら、納付すべき税額は相続税だと「 100万円」であったのが、贈与税だと「 275万円」と 3倍近くにまで大きくなっています。
贈与税も相続税と同じように速算表を用いると簡単に計算できるのですが、この速算表を見てわかるように、適用税率が大きくなる基準額が相続税に比べてとても低く設定されています。このことも関係して、贈与税の方が大きな負担となっています。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
参照: 国税庁 HP
贈与税の計算例(特例税率)
贈与財産の価額は 1,110万円、受贈者は贈与者の孫( 18歳以上)として計算例を示します。
課税価格 = 贈与財産 1,110万円-基礎控除額 110万円
= 1,000万円
贈与税の額 = 1,000万円 ×税率 30%-控除額 90万円
= 210万円
原則として贈与税には上で説明した税率(一般税率)が適用されます。しかし、贈与者と受贈者が「親と子」「祖父母と孫」など、直系尊属と直系卑属(ただし 18歳以上であること。)の関係にあるときは「特例税率」を使って計算します。上の例で比べてみると、一般税率だと「 275万円」の税額でしたが、特例税率だと「 210万円」にまで安くなっています。
計算をするときはこちらの速算表を使うと良いです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,5000万円超 | 55% | 640万円 |
参照: 国税庁 HP
お得に財産を受け取るには
以上より、基本的には相続まで待った方が税負担も少なくて済むということが分かります。
しかし贈与税の仕組みを上手く活用すれば、単に相続税で処理するより全体としての税負担を軽くすることもできます。
基礎控除の範囲内で贈与を繰り返す
贈与税でも 110万円までですが基礎控除が使えます。相続税の基礎控除額に比べると小さな額ですが、それでも 1年間で 110万円までなら贈与を受けても非課税です。
そこで相続までにその範囲内で贈与を繰り返しておけば、贈与税の負担ゼロで、相続税の負担を少しずつ軽くしていくことができます。
※生前贈与をするときは「生前贈与加算」に注意 |
---|
後述の特別な仕組みを利用せず生前贈与をする場合、 2024年以降の贈与財産については、相続前 7年分が相続財産に加算して課税されてしまう。つまり、非課税でお得に譲与できたという恩恵がなくなってしまう。そのため計画的に、早めに対策を進めておくことが重要。 ※ 2024年より前の贈与財産については相続前 3年分が生前贈与加算される。 |
贈与税の特例を使って贈与する
「学費のための資金」「子育てのための資金」「家を取得するための資金」など、特定の目的でする贈与については一定額まで非課税にできる特例があります。上限額があることや直系尊属から贈与を受けること、一括贈与された資金の管理であるなど、さまざまな要件がありますが、特例を利用できれば贈与税の負担を大幅に軽減することができます。
その分相続財産も少なくなりますので、相続税の負担も軽くなります。
さらに、こうした特例を使った贈与については生前贈与加算の対象外ですので、相続開始の直前にする節税対策としても有効です。
相続時精算課税で先に贈与することもできる
節税効果を直接発揮する制度ではありませんが、先に贈与をしておきたい財産があるのなら「相続時精算課税」を選択しておく方法もあります。
この課税制度を活用すれば累計額が一定以上になるまで贈与時の負担を回避でき、その分を相続税の課税で処理することが認められます。ただしこの課税制度を利用するときも、受贈者が贈与者の直系卑属であるなどの条件を満たさなくてはなりませんし、原則の課税制度から変更するための手続きも必要です。
資格者紹介Staff
税理士古野孝行
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当事務所の税理士は、独立前から一貫して相続案件に注力しており、一般家庭から20億円規模の相続まで、累計で120件超の対応実績があります。専門性の高さと土地の評価には特に自信があり、その実力は他の専門家から相談を受けるほどです。若手税理士ですので、相続対策や相続発生時のみならず、その次の代までサポートできるのも強みの一つです。お困りの際はお気軽にご相談ください。
- 相続税申告
- 生前対策
保有資格 |
税理士(東京税理士会 登録番号111177) 宅地建物取引士 日本商工会議所主催 簿記検定1級 財務金融アドバイザー (登録番号tky111177000) |
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